夫や子どもたちにモラハラをしてしまっていた――。
家庭という閉鎖的な空間で起きる“加害”は、他者の目が届きにくい分、気づくことも難しい。だからこそ、自身の“加害”に気づけた人の体験は、現在その渦中にいる人々にとって貴重な示唆を与えてくれるかもしれない。
ここでは、ノンフィクションライターの旦木瑞穂さんが、自身の過去の言動を反省する佐伯美幸さん(仮名、40代)に詳しく話を聞き、彼女の人生を振り返る。
第2回では夫の浮気に気づき、浮気相手の裸の写真やこっそりと会っている2人の姿を目撃したという顛末について聞いた。夫から「浮気ではなく本気だ」と開き直られてしまった佐伯さんは、決断を迫られる……。(全3回の3回目/最初から読む)
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夫との別離
家庭内別居状態になった佐伯さん夫婦は、必要最低限の会話しかしなくなった。夕食は用意してもビールは用意せず、家族での外食や旅行もなくなった。
2014年になると、夫の会社はいよいよ経営難に陥り、夫は家に月10万円しか入れてくれなくなった。ついに2015年に夫が工場を畳むと、月2万円しか入れてくれなくなった。
「それでも車やバイクを手放さず、夫は毎日スーパードライを買ってきて飲んでいました。私は子どものいないところで、『仕事を探してほしい』『車やバイクを売って』などと頼んでいました」
2016年。40歳になった佐伯さんが、
「お金を入れてくれないなら出て行ってほしい」
と言うと、夫は本当に荷物をまとめた。
「ごめん、パパとママは離れて暮らすことになった。じいちゃんたちは近くにいるからいつでも助けてくれると思うけれど、パパが必要なとき、困ったときはいつでも電話してくれていい。それから、ママのこと頼む」
こう子どもたちには伝えて出て行ったという。
「当時は長男は受験前で、勉強が不得意だったため、私に高額の個別塾に通わせられてストレスが多い時期だったと思います。それでも非行に走ることなく、妹と3人で変わらず暮らせたことは大切な思い出です」