17世紀イタリアで最も有名な画家の1人、カラヴァッジョ。どの作品も魅力的ですが、「キリストの埋葬」は中でも高い評価を受けています。でも、いったい何がどう凄いのでしょうか。
まず、計算され尽くした構図から見てみましょう。おそらく、もっとも目を引くのは右上の両手を大きく開いた女性(クレオパのマリア)だと思います。もう一か所、左下の岩盤にかかるキリストを包む白い布部分も、強い明暗のコントラストがあるので目立って見えるでしょう。しかも、クレオパの両腕が作るカーブが、白い布のたわみ部分に繰り返されているため、この二か所には繋がりが感じられます。すると、両者をつなぐ右上→左下の対角線を意識した下向きの流れを強調した構図だと分かるでしょう。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ「キリストの埋葬」
1602-04年 油彩・カンヴァス ヴァチカン美術館蔵
また、クレオパの左手から始まって、大きく左下へと弧を描くように人物群が配置されているのが分かるでしょうか。右の男性の左足踵がちょうど扇の要の位置にあり、俯く女性たち、背景の薄明り、身をかがめる赤衣の人物、聖母の突き出した右手、キリストの顔から白い布へ扇が開いていくように展開しています。大勢の人物を秩序だった配置に収めつつ、自然な動きを感じさせるのはさすが。
もう一つの凄さは、鑑賞者へと強く訴えかける仕掛けにあります。本作は約3×2mと非常に大きく、元々は祭壇に掛けられていました。ちょうど下部にある岩盤あたりから仰ぐような視点で描かれているので、鑑賞者はこの場面を実際に見上げているような臨場感が味わえたはず。すると、キリストの体が自分たちの方へと降りてくるような感覚があったでしょう。さらに、こちらを見ている男性の顔にも注目です。絶妙に影に埋もれているため、位置は画面中央を占めつつも、キリストや女性たちより目立ちすぎることはありません。しかし、このアイコンタクトによって、鑑賞者もこの場に参加しているような気分になれるのです。さらに、キリストの両足を抱えた男性の左肘と岩盤の角を鑑賞者の方へと積極的に飛び出しているように描くことで、画中のものが鑑賞者の世界へと迫りくるような効果も狙っています。
この絵の味わいポイントはまだあります。それは対比を用いたドラマチックな表現。最も際立つのが、光と闇の強いコントラストです。また、登場人物の視線を比較すると、天を仰いだり、キリストを見下ろしたり、鑑賞者の方に目を向けたりとさまざま。他にも、色使いでは赤衣と白い布。動きでは、クレオパの大げさな身振り、抱える男性のどっしりとした動作、だらりとしたキリストの様子が互いの動きを引き立て合っています。このように多くの要素に対比的表現を盛り込み、ドラマ性を高めているのです。
なお、カラヴァッジョの作品や波乱に満ちた人生について深く知りたい方には宮下規久朗先生の著作が情報の濃さは勿論、読み物としてもとても面白いのでおススメです。
