『消防士 2001年、闘いの真実』

 今月は、別作品と比較しながら観てみるとより楽しめる3本をピックアップしてみた。

 1本目の本作では、韓国で実際に起きた火災事故を題材に、その消火・救助活動に当たった消防士たちの人間模様が描かれる。

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 大がかりな火災シーンは序盤と終盤の2度出てきて、いずれも大迫力だ。炎の熱さや酸素の薄さ、建物の脆弱さといった取り巻く状況の困難さが丁寧かつリアルに描かれているため、我が身を捨ててでも懸命に人命を救おうとする隊員たちの姿がスリリングに伝わってくることになった。

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 だが、それ以上に刺さってくるのは彼らの置かれた境遇そのものだ。割り当てられる予算は少なく、給料も満足とは程遠い。防火や耐熱もままならない拙い装備のまま我が身を危険に晒し続けなければならない。しかも韓国特有の入り組んだ狭い路地は違法駐車し放題のため消防車が通り抜けることができず、現場まで長い距離を隊員たちは重いボンベを担いで走らなければならない。にもかかわらず、行政からの援助はなく、マスコミも彼らに厳しく接する。隊長が自費で隊員たちに手袋をプレゼントする場面はホロリとさせてくれるが、それは同時に、それだけ彼らにはどこからも支援がないことを意味する。

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 危険をかえりみずに重要な役割を果たしているのに、あまりに報われない――という構図は先月の『アスファルト・シティ』に通じている。ただ、『アスファルト・シティ』が徹底して乾いたタッチを貫いたのに対し、本作は隊員たちの交流を熱く描き、その画面の雰囲気も温かみがある。

 だが、そのことが終盤の展開をなおのこと痛切なものにしていた。ネタバレにはなってしまうが、実際の火災事故の顛末を知った上で観ることをあえてオススメしたい。そうすることで、そこに至る一つ一つの描写が重い意味を孕んでいることに気づき、ドラマをより濃厚なものとして味わえるはずだ。

監督:クァク・キョンテク/出演:チュウォン、クァク・ドウォン、ユ・ジェミョン、イ・ユヨン、キム・ミンジェ、オ・デファン、イ・ジュニョク、チャン・ヨンナム/2024年/韓国/106分/字幕:本田恵子/G/原題:소방관/英題:Firefighters/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム/©2024 BY4M STUDIO & ASK ROAD PICTURES & ASCENDIO All Rights Reserved./公開中/HP:/公式X:/TikTok: